己の常識を疑え。

井の中の蛙、大海を知らず。
自分の考える「普通」が「普通」であるとは限らない。

友人と飲みに行ったある日のことだった。
お酒を嗜みながら会話を盛んに弾ませた後、ふと思った。

「醤油かけご飯食べたいな」

そこで店員さんを呼んだ。

「白いご飯ありますか?お醤油も一緒に持ってきていただけたらありがたいんですが……」

おそらく大学生くらいだろうか。
店員さんはどういうわけか大層うろたえていた。

「あの、……お漬物もございますが……?」
「いや、お醤油でいいんです」
「お醤油だけ……ですか?」
「お醤油だけでいいです。むしろお醤油がいいんです!」

なぜ私はただご飯にお醤油をかけただけの醤油かけご飯が食べたいのに、ここまでお醤油お醤油と連呼しなければならないのか。

「あの、あの、ちょっと待ってくださいね?店長に確認してきます!」

そう言って彼女は部屋を出て行ってしまった。

友人と「どうしよう。なんか貧乏でお漬物買えない人みたいになってる?」と笑いあっていると、
さっきの店員さんがとても素敵な笑顔で白いご飯を持ってきてくれた。
そしてその隣には、お漬物。

「店長に確認しました!今回は特別にお漬物をお付けします!」

弾けんばかりの笑顔だった。

ちがう、ちがうんだ。
私はお漬物が食べたいけどお金がないんではなくて、純粋に白いご飯にお醤油だけを垂らしてお米とお醤油のハーモニーを楽しみたいんだ。

店員さんは、「醤油かけご飯」の存在を知らない?
白米にお醤油だけを好き好んでかける人などいないと思っていたんだろうか?

まさか……。
私は炭水化物が大好きすぎて、白米の味を最大限に楽しみたくて、塩や醤油だけをかけて食べるのが大好きなんだ。
今日は醤油の気分だった。
たまにラー油を足すのもアリだ。美味しい。
もし「ご飯と塩をください」と言ったら彼女はもっと気の毒そうな顔をしたんじゃないか?
こちらだってまさか「醤油かけご飯」の存在を知らないお嬢さんがいるとは思っていなかったんだ。
この日本に「醤油かけご飯」を食べない人種がいるなんて知らなかった!!

ちがうんだ、私が食べたいのは白米とお醤油。醤油かけご飯。
お漬物では埋められない心の隙間があるんだ!!!

でも彼女の心の葛藤、上司へ直談判してくれたその心の優しさを無碍にすることはできない。

「あ……、ありがとうございます!!」

彼女の笑顔に応えて、精一杯の喜びを見せた。
彼女もまた笑ってくれた。
善意と好意に溢れた空間となった。

「それでは、失礼します!」と彼女が去った後、
ありがたくほかほかの白米とお漬物を食べた。

醤油が欲しかった……。